分析レポート/

伊豆 – 2019年ゴールデンウィークに最も旅行者が増えたのはどの世代か?

国内旅行市場について

はじめに

jeki観光型移動者DMPを用いると、旅行者の年代性別(WHO属性)を明確化することができる。対象地域である伊豆のどのエリアにはどの世代の男女がそれぞれ何人やって来たのか、その人たちの割合がどのくらいなのかを知ることができる。

このレポートでターゲットとして分析するのは国内旅行者である。国内旅行者の国内における経済規模は全国で約20兆円といわれている。実際、総務省の統計によると、高齢者を含む全人口の約7割が国内観光旅行を楽しんでいるとされている。近年、訪日旅行者の全旅行者に占める割合が大きく増えている状況であるが、引き続き国内旅行者が大きな割合を占め続けることは変わりなく、その経済規模は決して無視できない。

ただし、国内旅行者の経済規模は近年大きな伸びがない。人口減少や少子高齢化が進む中、訪日旅行者と比較した場合、国内旅行者の数の今後の大きな伸びは期待しにくい。

伊豆エリアも人口減少や少子高齢化と無縁ではなく、特に伊豆の南部では過疎化が大きく進んでおり、過疎地域に認定されている市町が伊豆エリアだけで4市町も存在する。若年層を中心に生まれ育った地域を離れていく人が多いためだ。また、比較的人口減少の少なく各種産業も多い伊豆北部との間での格差が広がっている。こういった問題を踏まえ、伊豆全域として観光産業の活性化を考えていく必要がある。

そのためには、現在どのエリアにどのような層がより多く来ているのかデータをもとに、より正確に、より合理的かつ科学的に分析することが、各エリアのポテンシャルを測定したり今後のターゲットを設定したりするのに必要不可欠である。特に将来的に母数が大きく増える見込みの少ない国内旅行者向けには重要となる。

また、2019年の4月から6月まで、静岡県ではデスティネーションキャンペーンが行われた。 地方自治体・観光関連団体等の地域とJRグループ6社(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州)が協力し、一体となって作りあげる国内最大級の大型観光キャンぺーンであり、大きな経済効果が見込まれる。大きな伸びが望めない国内旅行市場において、このようなキャンペーンがどのような効果を及ぼすかについてもこれからのレポートを通して分析していきたい。

WHO属性について

このレポートではまず、WHO属性(旅行者の年齢性別)に焦点を当てて分析する。国内旅行市場の大きな伸びが望めなく、地域再生が急務の中、エリア内の観光産業をより発展に導くには、国内旅行者の客単価を上げていく方策が必要である。特に伊豆南部にその方策が必要となる。

そのための方策はいくつか考えられるが、例えば、より高所得の旅行者を取り込む、首都圏以外のより遠方の国内旅行者や海外からの旅行者を取り込んで長期滞在をしてもらう、様々な高付加価値のアクティビティを準備してより多くのお金を旅行者に使ってもらうなどの方法が考えられる。

また、若年層の女性をターゲットとした施策も有効である。若年層は必ずしも金銭的・時間的に余裕のある世代ではない。しかし、特に若年層の女性は同年代の男性や高年齢層の世代と比較してもアクティブであり、旅行も積極的に楽しむ世代である(図1 参照)。

また、エリアに若年層が増えると旺盛な消費や彼女らの持つ若さと活力でエリア全体が活性化するのはもちろんである。さらに、この世代はSNSなどのメディアを使って主に同世代に向けて口コミ情報などを発信し、その情報が次の集客につながることもあるため、情報の拡散力についても期待できる。

もちろん、若い世代の彼女たちにリピーターになってもらうことができれば、今後長期間にわたっての集客も可能になる。

したがって若年女性層を取り込むことは旺盛な旅行消費、SNSなどでの発信、長期リピーターの確保という面で極めて有効である。

図1 世代別旅行活動を楽しみ人の割合(出典:社会生活基本統計 H28)

これらの考えられる方策につなげるため、このレポートでは、jeki観光型移動者DMPを使って、ゴールデン期間中に伊豆エリアに訪れた国内旅行者の年齢性別(WHO)を分析する。WHO属性は旅行者の年齢性別を表すため、旅行への支出や現地での好まれるアクティビティと非常に密接な関係があるからである。

分析の手法

メッシュについて

エリアでの分析を行う際の地理的な最小単位としてメッシュを用いる。ここで用いるメッシュはJISが定める基準の3次メッシュ(約1km×1kmの大きさ)の単位であり、伊豆エリアで約1000個のメッシュで構成される 。

分析単位について

このレポートで旅行者数として用いられる数字は「平均旅行者数」である。あるメッシュ(1km×1km)の中に平均して何人の人が訪問したかを算出している。カウントする際はそのエリアに定住している人口は差し引いている。あくまでも観光などの目的で一時的に滞在している人口をカウントしている。

注意しなければならないのは、ここで算出される数字はあくまでも平均であり、実際の旅行者数の実数ではないということである。

用語の定義 - 旅行者・観光者・宿泊者


jeki観光型移動者DMPで表現する用語旅行者、観光者、宿泊者の3つの言葉を以下のように定義する。

図表 2 用語の定義

分析結果

2018年度と2019年度のゴールデンウィークの旅行者数の比較

2018年度のゴールデンウィーク(4月27日から5月6日まで)と2019年度のゴールデンウィーク(4月27日から5月6日まで)の旅行者数を2018年度を100%としてパーセンテージで比較すると以下のようになる。


図表 3 旅行者の比較

ゴールデンウィーク全体で観光者、宿泊者それぞれ約1.5倍になっている。かなり大きな伸びを示している。2019年度のゴールデンウィークは祝日ベースで10連休となる大型の連休となった。2018年は2019年の同10日期間中7日、最大の4連休であったため、連休の効果は2019年に比べると小さい。

図表 4 ゴールデンウィーク期間

それに対して2018年度のゴールデンウィークは通常通りの祝日構成であるため、休みの多さ、連休効果による旅行への喚起、長期滞在の旅行者の増加などが大幅増加の大きな要因であるといえる。

また、参考情報ではあるが、関東近辺の他の地域での2019年のGWの伸びは、例えば草津温泉で16%増などの数値が出ている(参考リンク:観光経済新聞)。これらの数値よりも伊豆エリアの増加は大きいため、キャンペーンの効果は高かったと予想される。

大型連休の要因とキャンペーンの要因を正確に分類するためには、同期間の他のエリアの集客状況、ゴールデンウィーク期間を除いたキャンペーン期間(4月から6月)における集客状況を調査する必要があるが、このレポートではゴールデンウィークの伊豆エリアにおける数値のみで分析できる結果のみを示していく。

性別年代別の比較

次に旅行者の性別と年代別にどの世代の旅行者がゴールデンウィーク期間中に、前年度と比較して最も大きな伸びを示したかを見てみる。


図表 5 性別年代別の表
図表 6 性別年代別のグラフ(観光者)
図表 7 性別年代別のグラフ(宿泊者)

伊豆エリアは元々一年全体を通して50歳以上の高齢者の訪問割合が非常に多いエリアである。しかし、2019年のゴールデンウイークは全く異なる傾向がみられる。 ゴールデンウィーク期間中を見る限り、40代までの若年層の訪問者の割合が圧倒的に高い 。

また、 どの世代に関しても、大きく伸びているのがわかるが、その中で最も大きな伸びを示している層は20代の女性(観光者168%、宿泊者173%)と40代女性(観光者165%、旅行者169%)であった。他にも30代女性や50代女性についても160%に近い数字がでており、同じ世代の男性と比較しても大きい。 この結果は、女性若年層に向けたキャンペーンの効果が非常に 高かったことを示している。

まとめ

大型連休やキャンペーンの効果により、2019年の伊豆エリアの旅行者は前年比150%を超える大きな伸びを示した。それらの集客を主に引っ張った層は若年の女性である。連休期間中であることを考えると、女性若年層の多くは、普段は仕事をしている人たちであると考えられる。また、男性よりも女性が増えていることを考えると、家族連れやカップルよりも、女性同士あるいは女性一人旅の旅行者がかなり増えたことが推測される。

若年層の女性同士あるいは女性一人旅の層は伊豆エリアにおけるキャンペーンでのターゲットとして注力している層であるため、これらの効果があったと考えることができる。家族連れやカップルや男性同士に比べて自家用車の利用率が低いと思われる若年女性のグループが、伊豆までどのように移動し、伊豆エリア内でどこへどうやって移動したかを今後分析する必要がある。